あけましておめでとうございます。
以下、地元ローカル紙の新年特集号に寄稿したものです。
しばしば話題となる議員定数とこれに関する市民参加について所感を述べたものです。
所沢だけでなく、自治体や自治体議会に携わる人たちは常々「市民参加・市民協働」ということばを口にしますが、実は本当に重要かつ世論によってしか根拠づけることができない事柄については、市民参加・市民協働を行わずに決めてしまうことが多いという皮肉をこめて議員定数のあり方を述べてみました。
本当は文章の最後にこのことをたっぷり書きたかったのですが、いささか過激になってしまいますので、自重し、前向きな終わり方にしてみました。
ですので、いつものように中途半端な感が否めませんが、以下掲載します。
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自治体議会の議員定数を規定する法的根拠は地方自治法にある。同法91条は人口規模に応じた上限定数を定めており、その範囲内において自治体は条例により定数を決めることとされている。
所沢の場合は「人口三十万以上五十万未満の市」に該当し、上限定数は46となるが、平成2年9月定例会において、所沢市議会の議員の定数を減少する条例を改正し、現在の定数36となっている(注1)。
昨年の12月定例会では、市長以下特別職の給料引き下げについての議論に端を発し、各会派から今後の定数についての提案がなされた。費用弁償を廃止し定数を4増とするもの、6減とするもの、2減とするものの3つの提案がなされたが、いずれも可決には至らなかった。
一般的には、定数が増えると、当選のハードルが低くなり、知名度や地盤のない候補の当選する機会が増え、その分だけ新しい声や少数意見が議会に反映されるといわれており、また、定数が減となれば、財政負担が軽くなることはもちろん、議員の権限と責任が相対的に大きくなり、審議の充実と効率化が期待できるといわれている(注2)。
しかし、定数を増やしたことにより、本当に新しい声や少数意見が議会に反映されるようになったのか、あるいは、定数を減じたことにより、本当に審議の充実と効率化がなされたのかについての実証的研究は未だかつてなされてはいない。「議員定数については、理論的な根拠や合理的な基準がない(注3)」のが実態である。
上述の理由から、とりわけ、定数の減に関する提案は、削減数について明確な根拠が示されないままに、議会内の党派的戦術や議員個人のパフォーマンスに用いられることも少なくない。このような状況を、所沢市行政経営推進委員会の委員長も務める廣瀬克哉・法政大学教授は次のように述べている。「(議会改革というとき)議員定数の削減ばかりが注目を集め、議員自らが大幅な定数削減を提案して『痛みのある改革を実現した』と自賛し、有権者もそれには異を唱えないという自虐の構造が広まっている(注4)」と。
以上をふまえたとき、私は、議会単独で定数を論じるのではなく、定数の決め方や基準について、市民・議会間の合意形成を図る必要があるのではないかと考えている。
昨年、北海道栗山町は全国初となる議会基本条例を制定し、議員定数の改正に当たっては、行財政改革の視点だけでなく「議員活動の評価等に関して町民の意見を聴取する」姿勢を明確に規定した(注5)。また、茨城県守谷市のパブリック・コメント(意見公募)手続要綱は、市の基本的な施策等の策定・変更についてパブリック・コメント手続を実施するものとし、その対象として議員定数条例を位置づけている(注6)。
所沢市においても、現在、自治体運営の基本原則を定めるまちづくり基本条例(自治基本条例)の策定作業が進行中である。議会の市民に対する説明責任を果たすためにも、市民と議会がコミュニケーションをとりながら、議員定数の根拠や基準について調査・検討し、策定中のまちづくり基本条例や、将来的には制定が視野に入るであろう議会基本条例に条文として盛り込むことが大いに期待される。
(注1)ちなみに、県内人口上位10市の議員定数と削減率は表の通り。
(注2)定数の増減には、当然、デメリットも存在する。定数の増は、議員に係る経費を一定とすれば、財政負担を重くするし、定数減は議員の固定化をもたらすとされる。また、定数減については、昨今の経済状況もあり、行財政改革の議会版とみる傾向があるが、一般会計予算に占める議会全体の経費の割合(議会費)は、ほとんどの自治体で1%にも満たない。もっとも、この1%を多いとみるのか、少ないとみるのかについては、判断の分かれるところである。
(注3)大森彌『新版 分権改革と地方議会』(ぎょうせい、2002年)p.74。
(注4)自治体議会改革フォーラム編『変えなきゃ!議会「討論の広場」へのアプローチ』(生活社、2007年)p.11。
(注5)栗山町議会基本条例16条2項。
(注6)守谷市パブリック・コメント(意見公募)手続要綱4条1号。
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