防音校舎28校への冷房設置費用は「78億円」もかかるの?

よく頂くご質問なので。

前回のエントリーにも書かせていただきましたが、「78億円」は冷房工事と暖房工事を合算した費用であり、冷房工事のみにかかる費用としては正確でありません。昨年12月11日に開かれた総務常任委員会でも以下のようなやりとりが行われています。

村上委員「先ほど参考人の方が懸念をしていたこと、78億というこのお金について、除湿工事、復温工事の関係はどうなのか。あたかも除湿工事だけで78億円かかるというような説明だったが、復温工事のみの場合だったらこれだけの金額だが除湿工事をするとこれだけになりますというその差額というのが議場ではあまり明確になっていなかったと思う。広報のときに大きな課題になってくると思うので、ご答弁いただきたい。」

轟文書行政課長「教育施設課に確認いたしましたところ、復温と除湿を合わせた工事費であり、設計などは分けていないということでした。」

総務常任委員会会議録23ページ

(中略)

谷口委員「もともとの暖房工事がいくらで、冷房工事を追加するといくらになるという金額を明らかにして広報しないと、本当の姿は伝わらないと思うが、いかがか。」

能登総務部長「広報紙につきましては、紙面も限られておりますので、どれだけの内容を盛り込めるかということがあります。意見書にしても16ページありますので、全部掲載できるわけではありませんし、請求要旨につきましても全てを掲載できるかわかりませんので、今後検討してまいります。」

谷口委員「全体像を把握するためにも、暖房工事を単独で行った場合はいくら、冷房工事を追加した場合はいくらで、その差額が実質冷房工事の費用ということで、非常にシンプルな話だと思うが、いかがか。」

能登総務部長「内容につきましては、詳細まで載せられるかどうかわかりませんので、今はお答えできません。」

総務常任委員会会議録30ページ

本条例案の採決に際し、谷口雅典議員は、暖房単独の設備と冷暖房の設備は基本的に異なるので、単純な切り分けはできないと前置きした上で、市からのデータをもとに、予定されていた狭山ケ丘中学校の冷暖房工事費の約45%が冷房工事分と推計しています。となると、78億円の約45%である35億円が28校の冷房工事の費用となります。当然、ここに国の補助金が入りますので、同様に計算すると、実際の市の負担分は13億円から14億円になります。仮に、10年かけて整備するとすれば、単年度で1億3,000万円から1億4,000万円の支出となります。

また、平成23年12月定例会の教育総務部長答弁によれば、近隣他市のように、防衛省の補助を受けず、リース方式により全ての学校の普通教室(防音校舎以外の校舎も含む)にエアコンを設置した場合、総額20億円となり、10年リースであれば年間2億円との試算もあります。

今回賛否を問われている「防音校舎に関する平成19年度以降の整備方針(リンク先下段)」には、全ての防音校舎に一気に冷房を設置するとは書かれていません。

極端な言い方ですが、「単年度に78億の支出」ととらえるか「年間2億円の支出」ととらえるかでずいぶん印象が異なる気がします。

市からも住民投票に関する特集号が配布されましたが、以上のような総務常任委員会での議論があったにも関わらず、あまり説明がなされませんでした。大変残念です。

「エアコン問題」は2月15日(日) 住民投票へ

報道等でご承知の方も多いと思いますが、市議会は、先に開かれた12月定例会において、市民からの直接請求により議会の審査に付された「防音校舎の除湿工事(冷房工事)の計画的な実施に関する住民投票条例」を修正可決し(※1)、藤本正人市長就任以来、約3年間にわたって市長と議会の間で議論してきた狭山ケ丘中学校の冷房工事中止に端を発する「エアコン問題」(※2)は、住民投票に付されることが決定しました。

投票日は2月15日(日)となります。

なお、本条例の審査に先立ち、議会では一般質問等で再三議論が交わされたほか、平成24年6月定例会において市長に冷房工事の中止に対して再考を促す主旨の「教育環境の改善を求める決議」や「所沢市立狭山ケ丘中学校の復温工事(暖房設備工事)・除湿工事(冷房設備の追加工事)が定められた整備方針に基づき、平成25年度から復温・除湿工事を実施することを願う件」が賛成多数により可決・採択されています。

何を決める投票なのか?

住民投票は、同条例に規定の通り、平成18年2月に斎藤博市長(当時)が決裁した「防音校舎に関する平成19年度以降の整備方針」に基づいて冷房工事を計画的に実施するか否かについて賛否を問うものです。

投票対象を含め、今回行われる住民投票については様々な情報が錯綜している感がありますので、まずは、リンク先下段にある同整備方針をご一読いただければと思います。

この整備方針に対する市長と条例制定請求者の主な主張は以下の通りです。

市長の主な主張

  • 東日本大震災と原発事故を経た私たちは「便利で快適な生活を見直すべき」。最も暑い教室でも30℃を超える授業日は年間10日程度。「暑いからクーラーを」で良いのか。
  • すでに冷房が設置されている宮前小学校を除く防音校舎28校(※3)に冷房を設置するには約78億円(国負担48億円・市負担30億円)が必要となる。税金の使い方として適切でない。

条例制定請求者の主な主張

  • 冷房の設置は、暑さ対策ではなく、騒音対策。冷房の設置が中止となった狭山ケ丘中学校や北中小学校の存する区域は、防衛大臣が定める「自衛隊の航空機の離陸・着陸により生ずる音響に起因する障害が著しい区域」で、国の環境基準が達成されていない。騒音のない地域の学校と同等の教育環境を求めているだけ。
  • 市議会では平成24年6月定例会において冷房工事の中止について市長に再考を促す主旨の「教育環境の改善を求める決議」や「所沢市立狭山ケ丘中学校の復温工事(暖房設備工事)・除湿工事(冷房設備の追加工事)が定められた整備方針に基づき、平成25年度から復温・除湿工事を実施することを願う件」が賛成多数により可決・採択されている。

中村とおるの主張

中村とおるは、以下の理由により、投票の対象となる整備方針に賛成しています。

  • 冷房工事は騒音対策。暑さ対策としては冷房設置以外の方法も考えられなくもないが、防音校舎の騒音対策としては「窓を閉める」ことが必要であると考えられること。
  • 平成18年に決定された整備方針は、当面、航空機騒音の激しい宮前小学校、狭山ケ丘中学校、北中小学校に、温度保持工事(暖房工事)と除湿工事(冷房工事)を併せて実施することを決定したと解釈でき、残りの防音校舎への冷房工事については、設置時期や予算額等が明確でないことから、直ちに残りの26校に冷房工事を実施するとしたものではなく、時々の財政状況等を考慮する余地が残されていると考えられること。
  • 市長の主張する「78億円」は、冷房工事と暖房工事を合算した費用であり、冷房工事のみにかかる費用として正確でないこと。たとえば、「リース方式による本市の普通教室のエアコン設置費用の試算をいたしますと、総額がおよそ20億円となりまして、例えば10年リースでございますれば年間約2億円ということになります(平成23年12月定例会における教育総務部長答弁)」との試算もあること。
  • 小中学校の普通教室への冷房設置は全国的に増加傾向であり、平成22年に16%だったものが平成26年には32.8%まで増加していること(文部科学省調べ)。ちなみに、東京都は99.9%、埼玉県は48.9%。
  • 県内他市においても、さいたま市、戸田市、和光市、新座市、飯能市等は冷房設置率100%であり、上尾市、狭山市等も設置率50%以上であること。所沢市は約2%。

市長のいう「便利で快適な生活を見直すべき」という主張にはうなづける部分も多いのですが、今回の「エアコン問題」については、決裁書に存在しない「78億円」という金額をもちだして説明するなど、いささか強引な印象が否めません。平成18年に決定した整備方針に対する見方もかなり極端な気がします。

まずは、整備方針の通り、騒音対策として残りの2校に冷房を設置し、その後については、地元や議会の意向も踏まえ、財政や施設の老朽化をはじめとする様々な状況を考慮しながら、計画的に冷房を設置していくべきだと考えます。

いずれにしても、2月15日に投票が行われます。市ホームページにも様々な情報がありますが、少なくとも、12月定例会に市長が住民投票条例案とともに提出した意見書(議案第144号「防音校舎の除湿工事(冷房工事)の計画的な実施に関する住民投票条例制定について」に付属)と、本会議で行われた条例制定請求代表者の意見陳述(所沢市議会「議会中継」11月27日分)をご覧になり、ご判断いただきたいと思います。

※1 市民の投票行動にインセンティブを与える等のため、投票数が有権者数の1/3を超えた場合には、結果をより重く受け止めるとの条項を加えた修正案が賛成多数により可決。なお、この修正部分を除いた原案については起立総員(全会一致)により可決。

※2 航空自衛隊入間基地周辺の小中学校に夏場の騒音対策として冷房を設置する計画を藤本市長が中止した問題。なお、整備方針にある宮前小学校については平成21年度に改修工事が終了し、すでに冷房が設置済み。

※3 市内防音校舎は小学校18校(所沢、南、荒幡、北、美原、並木、西富、小手指、上新井、北野、北中、山口、泉、椿峰、三ケ島、若狭、林、宮前)、中学校11校(所沢、美原、中央、南陵、富岡、小手指、北野、山口、上山口、三ケ島、狭山ケ丘)の合計29校。

マニフェスト再考(寄稿)

ローカル紙の新年号に寄稿した文章です。若干、加筆訂正してあります。

時間がかなり経ってしまったのでこっそり。


ご承知の通り、昨年10月に行われた所沢市長選挙において藤本正人新市長が誕生した。藤本氏の得票は38,655票、敗れた現職の当摩好子氏のそれが37,029票であり、その差はわずか約1,600票であったことからもわかるように、選挙戦はかなりの激戦となったが、大きな争点がなかったためか、あるいは公明党や日本共産党が推薦する候補者がいなかったためか、投票率は34.68パーセントと決して高いとはいえず(※1)、また、近年の選挙では「標準装備」となっているマニフェストについても提示したのは、現職の強みということか、当摩氏のみであった。市長と同様に本市の政治の一翼を担っている議会に議席を有している立場からはなかなか申し上げにくいのだが、同時期に世間の耳目を集め、大阪都構想――その詳細はともかくとして――という政策の是非を中心に争われた大阪ダブル選挙(※2)と比べてしまうと、投票率の点でも、政策が争われた選挙であったか否かという点でも、先般の市長選挙はいささか寂しい結果であった。

さて、このマニフェストだが、一般的に、政策の数値目標、実施時期、財源などを明示した公約と定義され、耳あたりのよいスローガンや単なるウィッシュリストであった従来の公約とは異なり、政策実現への道筋を明らかにし、かつ、事後検証可能な公約であることを大きな特徴としている。2003年の衆議院議員総選挙から国・自治体の選挙を問わず、マニフェストを掲げる政党・候補者個人が増え、国政選挙や自治体の首長選挙ではマニフェストを掲げる政党・候補者がひとりもいない選挙はないといってよいほど定着しつつある仕組みとなっている。また、上述の特徴のほかにも、マニフェスト、とりわけ、自治体の選挙において提示されるローカル・マニフェストには、住民自治の醸成という観点から、選挙に際して自治体が抱える現在の課題や目指すべき将来像を争点として、住民にわかりやすく情報提供し、市政に対する住民の理解を深め、市政への参加を推進させるという意義(※3)もある。実際、こうした目的をもつ要綱(「マニフェスト作成の支援に関する要綱」)を策定し、公職に立候補を予定している者に対して公平に情報提供を行っている自治体(※4)もあるようだ。

しかし、その一方で、マニフェストを掲げての選挙には多くの課題があることも事実である。ここではおもにローカル・マニフェストの課題について論じるが、例えば、政党・候補者(とくに新人)の情報や経験の不足から生ずる、すでに実現されていた事項やそもそも実現不可能な事項のマニフェストにおける提示や、選挙を戦う上で「マイナス」と考えられる事項の不提示、マニフェスト事項の実現のみへの傾注がもたらす社会経済情勢の変化に対応できない行政運営の硬直化(※5)、公約のたたき売り、住民のもつ自治の主体という側面を不明瞭にし、行政サービスの消費者という側面のみを強調してしまう可能性などである。

もっとも、これら課題の多くは選挙における政治家(候補者)のミッションと行政運営における政治家のミッションのズレに由来するものが多い。選挙における政治家のミッションはいうまでもなく得票数の極大化であり、当然、選挙に「マイナス」と考えられる事項を掲げる可能性は相対的に低くなり、逆に、実現不可能であっても選挙に「プラス」と考えられる事項を掲げる可能性は相対的に高くなる。また、多くの自治体の選挙の投票率が50パーセント以下という状況を考慮すれば、マニフェストだろうが従来の公約だろうが、50パーセント以下の選挙に行ってくれるであろう有権者の「部分最適」を提示できればよく、選挙区の「全体最適」を提示するインセンティブは働かない。場合によっては、マニフェストも従来の公約も提示しないという手法が得票数の極大化につながるケースもあるかもしれない(※6)。

しかし、選挙を戦った政治家の環境は当選を境に一変する。選挙時には得票数の極大化に「マイナス」な事項は避けて「プラス」を訴えることができたが、これでは実際の行政運営は覚束ない。政党や支持の異なる政治家はもちろん、官僚、他の政党・候補者に投票したであろう住民、投票を棄権した住民、さらには選挙権のない者をも対象とした「全体最適」を提示、実行しなくてはならない。そうでなければ選挙区全体の繁栄は望めないからである。ここに選挙における政治家のミッションと行政運営における政治家のミッションのズレがある。

話は少し横に逸れたが、申し上げたかったのはマニフェストという仕組みを一概に悪と判断するのではなく、こうした不回避的ともいえる状況のなかからマニフェストがつくられるという事実である。これらを踏まえた上で、被選挙人はより誠実にマニフェストの作成に取り組まなければならないし、選挙人はより慎重にマニフェストを解読しなければならないと思うのである。

※1 ちなみに、昨年4月に行われた所沢市議会議員一般選挙の投票率は41.18パーセントであり、これも決して高いとはいえない。

※2 大阪市長選挙の投票率は43.61パーセント、大阪府知事選挙の投票率は52.88パーセントであった。

※3 マニフェストについては筆者も昨年3月定例会の一般質問でとりあげ、当摩市長(当時)とその意義を確認しようとしたが、定例会の最中に東日本大震災が発生し、質問は文書質問となった。詳しくは、所沢市議会ホームページ「市政に対する質問」参照。

※4 例えば、岐阜県多治見市、愛知県一宮市、長野県小諸市、愛媛県新居浜市、埼玉県羽生市などには同名の要綱がある。また、三重県松阪市の山中光茂市長は同趣旨の条例を2012年2月議会に提案するとの報道がある。

※5 マニフェストに掲げた事項の撤回は反対勢力に絶好の攻撃材料を与えてしまうので、マニフェスト作成時とは社会経済情勢が変化していても無理やり実行してしまう場合がある。

※6 例えば「若さ」「誠実さ」などをウリに選挙を戦うことが考えられる。選挙戦の状況によっては、詳細なマニフェストなどの提示が得票数の極大化の邪魔になる場合すらある。

以上