原田尚彦『新版 地方自治の法としくみ 改訂版』(学陽書房、2005年)
よくある逐条で書かれた地方自治法解説本ではなく、筆者の関心や近年重要とされている点についてトピックごとに整理し書かれています。
この手の法律解説本を最初から最後まで続けて読むことは、忍耐力が必要でなかなか難しいのですが、なぜか読み終えることができました。読んでいるときはあまり感じなかったのですが、法律の解説や身近な問題とのかかわり、判例などのバランスがとても良かったのかなという気がしました。
初版の発行が1983年ということもあり、多少の古さは否めませんが、地方自治の制度や各自治体をとりまく現在の状況を概観するにはおススメの本です。
印象に残ったところをいくつか。
「国の措置に違法の疑いがあると思慮する場合には、積極的に訴訟を提起して裁判所の判断を仰ぎ、その適法性が確認されたとき、はじめてこれに従うべきなのである。地方自治の保障は、自治体の側に、自主的に法を解釈する権限をあたえるが、同時に、その適法性を確認する責任を課していると解される。」(p.68)
後半の「同時に〜」部分は、地方自治に携わる人間にとって非常に重い一文です。
与野党の国会議員がともに地方分権を声高に叫ぶご時世ですが、国会議員はやはり国政の議員であり、当然ですが、国の側から地方分権を論じがちです。今後も分権をすすめるためには、自治体が積極的に司法判断を活用すべきと考えます。
「憲法上の地方自治の保障を手続的参加のみに求め、実体的保障をいっさい断念してしまうのは、いささか早計である。憲法が地方自治を保障する以上は、地方公共団体が住民自治の原則に即して実施すべき中核的事務があると考えるのが、常識的である。たとえば、地域の環境保全や住民の健康な生活環境の保持は自治体固有の自治事務と解すべきである。もしこの分野に法律が定められた場合には、その規定は、自治体の権能を制約する立法ではなく、全国一律のナショナル・ミニマムの定めであり、自治体が必要な対策を追加的に講じるのを妨げるものではないと解すべきである。」(p.71)
と書かれていますが、その一方で、
「自治体が自主的に独自の政策を行うには、あらゆる施策を、他の施策との調和を配慮して比較考量し果敢に取捨選択しなければならない。いかなる施策も現実の行政においては絶対的至上価値をもつとはいえない。福祉の充実とか環境の保全は、つねに他の施策に優先すると主張する向きもあるが、これらの施策といえども、他のもろもろの施策との調和を考慮し、ホドホドに実施すべきであって、多々益々弁ずというわけではない。いま、具体的に福祉に例をとると、たしかに福祉の向上は人道上望ましいけれども、人びとの自立心を脆弱にしたり、費用負担者である納税者の勤労意欲をそぐようでは、健全で活気ある地域社会の形成に役立たない。いかに正当な目的を追う政策でも、その推進は、反面に自由の制約、負担の増大、行政水準の低下、不公平感の助長、モラールの消沈などのデメリットをともなうものである。」(p.245〜246)
当然のことですが、政策形成段階での住民参加を保障し、自治体が自らの責任において効率的かつ住民の利益を最大化できるような政策を選択・決定していくことが求められています。
「審議会等は、正式には条例にもとづいて設置されるが、要綱などにもとづいて設置される審議会や研究会もある。こうした機関は、非公式な機関であって、執行機関とりわけ長の、いわば私的諮問機関と位置づけられている。現在のところ一部下級審にはこれを違法とする趣旨の判決(さいたま地裁平成十四年一月三〇日)もあるが、要綱等による諮問機関の設置を違法とする声は、あまりきかれず、ある程度、行政慣行として承認されている。だが、委員の報酬は公金から出されているから、こうした扱いを容易に一般化してよいかは疑問である。お気に入りだけを集めた、いわば私的なブレイン行政はときに、権力の私物化を招く。条例主義を徹底することが望ましい。」(p.113〜114)
所沢市の審議会もすべて条例設置ではないような? 今後の課題です。