課題の多い所沢市のパブリックコメント

市民参加の一般的手法の一つとしてパブリックコメントという制度があります。国や自治体が実施しようとする政策等について、あらかじめその案を広報紙やホームページ等で示し、国民に広く意見を求めるとともに、提出された意見とこれに対する行政機関の考え方を公表する一連の手続きのことで、平成11年に同制度が国に導入されて以降、自治体にも広がったものです。

所沢市でも平成17年から実施されており、平成27年に制定された市民参加を進めるための条例に実施の義務が規定されました。昨年度は本市の最上位計画である第6次総合計画をはじめ、第7次高齢者福祉計画・介護保険事業計画、市内循環バス(ところバス)路線変更、障害のある人もない人も共に生きる社会づくり条例等、計15件についてパブリックコメントが実施されました

しかし、本市の制度は、他自治体のそれに比べて多くの課題があり、質問では以下の点について改善を求めました。

中村とおる:本市では、基本的な計画や市民生活に大きな影響を与える条例をパブリックコメントの対象としているが、国や川越市等の先進自治体では、規則や処分基準、審査基準、行政指導指針も制度の対象としている。市民参加を充実させる観点から対象の拡大を図るべきではないか。
経営企画部長答弁:実施を義務づける項目を拡大することについては、検討が必要だ。総合的に判断させていただければと思う。

中村とおる:本市の「パブリックコメント手続き実施要綱及びその考え方」では、パブリックコメントの対象となるか否かについて、「実施機関(※1)は、各案件が対象となるか否かを判断し、併せてその判断について説明責任を負うことになります」と記述されているが、対象とならなかった案件とその理由が公表されておらず、説明責任を果たしていない。公表すべきではないか。
経営企画部長答弁:現時点で対象とならなかった理由の公表は考えていないが、改めてパブリックコメントの原点にかえって考えたい。まずは運用面での改善に努めたい。

中村とおる:本市では意見提出期間を原則14日以上としているが、県内他市は40市中32市が30日ないし1ヶ月以上、20日以上の2市を加えると、40市中34市が20日以上の提出期間を設けている。一昨年の12月から昨年の1月にかけて(仮称)所沢新電力事業についてパブリックコメントを実施したが、意見提出期間は12月25日〜1月5日の12日間、年末年始や休日を除くとわずか6日間である。意見提出期間を原則14日以上とした根拠は何か。他市の状況等を踏まえ、意見提出期間を延長すべきではないか。
経営企画部長答弁:期間を14日間とした明確な根拠はない。当面は意見提出期間の見直し等は実施しない予定だが、今後検討していきたい。

経営企画部長の答弁はいずれも消極的で理由のないものばかりでしたが、制度の目的は「市の政策形成過程において公正の確保と透明性の向上を図り、市民の市政への参画と市民との協働のまちづくりを推進すること(※2)」にあります。実施要綱を含めた制度の改善が強く求められます。

※1 市長、教育委員会、選挙管理委員会、農業委員会等を指します。
※2 所沢市ホームページ「パブリックコメント手続きの概要」より。

立法機関としての議会

議会基本条例10周年を記念して開催されたシンポジウムに併せて発行された「所沢市議会基本条例制定10周年記念誌」に寄稿した文章です。以前書いたこちらの文章を大幅に加筆修正したものです。

立法機関としての議会

「市議会は、二元代表制の下、市長等執行機関との健全な緊張関係を保持しながら、立法機能及び監視機能を十分発揮し、もって地方自治の本旨の実現を目指さなくてはならない」。所沢市議会基本条例前文の一部である。

10年前、同条例の検討のために設置された議会基本条例制定に関する特別委員会の委員となり、素案策定を行なった際、委員各位の同意を得て、「立法機能」という文言を盛り込んだ。この文言の入った議会基本条例は全国にそう多くない。日本国憲法が国会を「(唯一の)立法機関」と規定している(41条)一方で、地方議会を「議事機関」としている(93条)ためだろう。

「議事機関」とは何かについてここで詳細は述べないが、私は、議会は立法機関であって、この機能を発揮してこそ、市民に信頼される議会になり得ると常々思っている。

制度的にも、地方自治法は、条例の制定・改廃を議会の権限とし(96条)、普通地方公共団体の長を執行機関として位置づけている(138条の2、138条の3等)。あたりまえだが、長に条例提案権はあるが、条例制定権はない。こうした意識を議会・議員がもつことが重要だ。

地方分権一括法の施行は、条例制定権の及ばなかった(すなわち、議会が関与できなかった)機関委任事務を廃止し、議員の議案提出要件を議員定数の8分の1以上から12分の1以上へと緩和した(112条2項)。現在では議会内に設置された委員会にも議案提出権を認めている(109条の6)。議会がもつ立法機能の拡大と発揮は時代的な要請ともいえるだろう。

予算提案権のない議会が地域独自の新たな政策の実行を執行機関に義務付けようとすれば、条例制定以外に方法はない。執行機関への決議や質問・質疑に対する答弁に拘束力はないからだ。

しかし、残念なことに、議会基本条例制定以降に成立した議員提案による政策条例は、平成26年に制定された所沢市歯科口腔保健の推進に関する条例の1件のみである。むやみに条例を制定する必要はないが、10年間に1件ではさすがに少ない。前文に掲げた立法機能の発揮という点からは、議会改革もまだまだという印象だ。

議員提案の条例制定には当然多くの困難がともなう。思想・信条の異なる議員間による合意形成の難しさはもちろん、議会を支える政策法務スタッフの不足、市民参加、執行機関との調整、「与党・野党根性」、長の再議権等だ。

翻って、本市議会の過去を振り返ると、平成9年に制定されたダイオキシンを少なくし所沢にきれいな空気を取り戻すための条例は、議員提案による地域独自の条例として、多くの地方自治関連書籍にもとり上げられる先進事例となっている。所沢市自治基本条例や直接請求に端を発した防音校舎の除湿工事(冷房工事)の計画的な実施に関する住民投票条例の審査の際に行なわれた議員間での修正協議も記憶に新しい。条例策定には議員間の熟議が重要となる。執行機関に質問すれば条例案ができるわけではないからだ。

常任委員会も活性化している。明示的な制度ではないものの、各委員会はそれぞれテーマを掲げて所管事務調査を行なっており、執行機関へのヒアリングや現場視察だけでなく、参考人招致、専門的知見の活用、自由討議、各種団体との意見交換も盛んになってきた。議会が条例を制定するための土壌は整いつつある。

議会基本条例が制定され、10年が経った。以上をふまえ、私たち議員は議会のもつ本来の立法機能を自覚し、条例制定をおそれず、市民や執行機関に向き合う必要がある。「市長に恥をかかせる」等の意識は無用だ。そもそも議会が立法機関なのだから。

エアコン設置の是非を問う住民投票を終えて(雑感)

  • 投票率と投票結果については実感とほぼ変わらず。低投票率とはいえ、30%を超えたことは良かったと思う。投票率は過去2回の市長選挙とほぼ変わらず。直近の県知事選より高い。
  • 住民投票条例には「市長および市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない。この場合において、投票した者の賛否いずれか過半数の結果が投票資格者総数の3分の1以上に達したときは、その結果の重みを斟酌しなければならない。(11条)」とある。報道等で指摘されている「1/3」が成立要件でないことは本会議で確認済み。前段部分は請求者原案と同じであり、当然、市長および市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない。後半部分については、市民の投票行動にインセンティブを与えるため、地方自治法の解職請求制度の署名数を根拠とし、先行事例等をふまえて、原案に付け加えたもの(※)。決して「市長と住民双方にいい顔」をしようとしたわけではない。ただし、市民にはわかりにくかったように思う。もともと議会内には成立要件について様々な意見があったが、できる限り合意形成を図ろうと議論を尽くした結果である。「市長と住民双方にいい顔」をしたかったのは匿名を条件に取材に応じた議員ではないだろうか。

※ 小平市都道328号線の計画見直しの是非を問う住民投票に関わった國分功一郎氏(哲学者)は、50%成立要件を投票ボイコット運動を誘発するものとして問題視するとともに、一方の選択肢が総有権者数の1/3を超えた場合、その結果を尊重すると規定する我孫子市市民投票条例を評価している。詳しくは、國分功一郎『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(幻冬舎、2013年)を参照。

  • 投票対象を含む関連情報の周知については、今後、議会において検証すべき点が多いと感じる。市民からも「よくわからない」というご意見を多くいただいた。賛成・反対双方の側から様々な情報が提供されたが、冷房設置にかかる費用や教室内の温度等、一定の条件もとで客観的数値で示すことができるデータについては、双方が「すり合わせた」うえで提示できなかったのかとも思う。もっとも「すり合わせ」のできる環境であれば、そもそも住民投票は行われなかったとも考えられるので、何とも言いようはないが……。投票までの期間についても、請求者原案が「30日以内」であったものを議会で「60日以内」と修正した。主に事務手続き上の理由から修正を行ったが、市民の熟慮期間を考慮するならば、もう少し期間が長くても良かったかもしれない。
  • そうはいっても、反対派の冷房設置費用「78億円」は、実感として、市民に大きな誤解を与えたと考える。反対派のチラシも数種類あり、なかには「冷暖房工事の試算」と注釈が書かれたものもあったが、多くの方々が冷房設置費用が「78億円」と考えていたようだ。前回のエントリーにも書いたが、この点については総務常任委員会での指摘があったにも関わらず、市の広報紙も含め、「判りにくい」表現となったことは非常に残念だ。
  • 市長も議員も条例案を議会に提案でき、議決されれば、市民を拘束する条例をつくることができる立場だ。住民投票条例に罰則はないが、第7条には「(1)市長は、住民投票の適正な執行を確保するため、市民が適切な情報に基づいて判断できるよう必要な情報提供を行うものとする。(2)市長は、前項に規定する情報の提供に当たっては、中立性の保持に留意しなければならない。」とある。市長は市内各種団体の新年会や街頭で大々的な選挙運動をしていたようだが、今後、この条文との整合性をどのように説明するだろうか。また、議会はどう考えるだろうか。
  • 「迷惑施設の建設や大規模開発、基地問題等で住民投票を行うなら理解できるが、小中学校への冷房設置ごとき問題でなぜ住民投票を行うのか?」というご指摘も多くいただいた。この指摘に関連し、3つのことを考えた。

ひとつは、冷房の設置について市長と議会の見解が分かれていることが伝わっていなかったということだ。「冷房の設置ごとき問題」を議会が決められず、住民投票に委ねたと理解されている場合だ。こう理解されていた方は「今時、学校に冷房ぐらい設置するのは当たり前なのに、議会は何をやってるんだ」と考えている場合が多かった。議会としては以前から冷房の設置工事を中止した市長に対して再考を促す主旨の決議等を議決していたが、この辺りのことがあまり伝わっていなかったし、市議会だより等を通じて住民投票に至るまでの経過を周知したが、まだまだ説明責任を果たしたとまでは言えなかったのではないだろうか。

二つめは、住民投票という制度を、いわゆる迷惑施設の設置を決めた国(場合によっては都道府県)に対して地元の意見を表明する機会と理解されていた場合だ。「国策」の是非を問う住民投票は確かに多い。しかし、全国のどこかには必要であるにも関わらず、地元に迷惑がかかる可能性のある施設の設置の是非については、安易に住民投票に付すべきではない。各地で投票が行われれば、各地で設置反対の結論になる可能性が高く、「どこかに必要な施設であるにも関わらず、どこにも設置できなくなってしまう」からだ。こうした問題については、首長・議会が自らの責任において判断すべきと思う。

三つめは、東日本大震災以降の日本の民主主義についてだ。反原発を掲げる国民が国会を取り囲んでデモを行った(行っている)ことは記憶に新しいが、震災後(市長もよく言われる「災後」)の日本は直接民主主義の流れが強くなっているといわれる。SNSの発達なども影響しているだろう。国の制度とは異なり、現行の地方自治制度にはいくつかの直接民主主義制度が予め備えられている。間接民主主義が基本なのかもしれないが、これらを上手く活用して自治体運営を行っていかなければならないと思う。議会改革にもつなげていかなければならない。

  • 報道によれば、市長は住民投票の結果を「重く受け止める」としながらも、冷房設置の判断を先送りしたようだ。投票結果の分析や財政上の課題等もあるだろうから、この姿勢には一定の理解を示すが、条文の通り「市長および市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない」のであり、原則として「冷房を設置する方向」で今後の議論が行われる必要があると考える。23日から新年度予算を審査する3月定例会が始まる。今回の住民投票で冷房設置の是非は市の財政上の問題として語られた印象が強い。となると、冷房設置に対する市の財政上の方針が見えない限り(冷房設置に関する財源が確保されない限り)、新年度予算をそのまま議会が通すことは難しくなるのではないだろうか。とりわけ、財政難を理由に冷房設置を見送るべきと主張した議員はそのように考えているのではないだろうか(考えなければいけないのではないだろうか)。