引き続き、3月定例会で行った一般質問の内容について記しておきます。
今回は生活保護制度についてです。
最近では大阪市の対応や某病院の診療報酬不正受給事件など何かと話題の制度ですが、生活保護扶助費には、食費や被服費など日常生活に必要な費用を支給する「生活扶助」、アパートなどの家賃について支給する「住宅扶助」、医療サービスの費用について支給する「医療扶助」、就労に必要な技能の習得などに係る「生業扶助」など8種類の扶助と、保護施設に係る事務費があります。
本市における近年の状況は、数年前まで40億円台で推移していた生活保護扶助費総額が21年度12月定例会補正後の予算額で56億円、本年度の当初予算では60億円にまでふくれ上がっています。生活保護扶助費はその4分の3が国、市は4分の1を負担することになっているのですが、それでも市財政に与える影響は甚大です。おそらく、単年度に比較的多額の予算を必要とする施設建設事業を除けば、毎年これだけの予算が必要となる事業は市において他にないのではないでしょうか。
という生活保護制度について、今回は以下の4つの視点から質問を行いました。
- 制度に関する情報提供について
- 住宅扶助について
- 医療扶助をはじめとするその他の支給について
- 二重支給や不正受給に対する市の考え方について
の4点です。
制度に関する情報提供について
1は後程論じる2の住宅扶助の問題とも関連してくるのですが、これだけ多額の予算が使われており、今後も増加が見込まれ、かつ、不景気の時代で誰もが生活保護制度のお世話になる可能性がある現状にもかかわらず、市民に対しての周知、情報提供が甘いのではないかということです。
「広報ところざわ」には毎月のように市の事業が紹介されていますが、私は生活保護制度の詳細を論じた記事を見たことはありませんし、市のホームページにも「ご相談ください」とは書かれているものの、制度の詳細は一切論じられていません。「最後のセーフティー・ネット」であるにもかかわらずです。
厚生労働省は、ホームページで保護費の支給について夫33歳、妻29歳、子ども4歳の「標準3人世帯」の生活扶助基準(東京都区部等で月額167,170円、地方郡部等で130,680円)を公表していますが、少なくともこのページへのリンクと、本市の「標準3人世帯」への支給額(月額159,870円)ぐらいは掲載してほしいものです。
生活保護制度にはその支給額や不正受給のチェック体制などに様々な批判もありますが、私は真に保護が必要な方には十分な支給が行われるべきと考えます(「濫給より漏給を恐れよ」です)。しかし、その大前提には制度についての市民のさらなる理解が必要ではないかと思うのです。市民に詳細な情報提供を行うことにより「これでは支給額が多い」とか「困っているのでお世話になろう」とお考えになる人も増えるでしょうし、不正受給に対する市民同士の視線もさらに厳しいものになっていくかもしれないと考えるからです。
住宅扶助について
2は、これは市が悪いというよりも法律がおかしいのですが、生活保護法上の住宅扶助基準額は月額13,000円です。この値段で借りることのできる物件はほとんどないでしょうから「足りない分は生活を切り詰めて……」と思われるでしょうが、そうではありません。国の基準とは別に県や市の特別基準というものが存在し、本市の場合では住宅扶助として月額47,700円が、さらに3人以上の世帯にはこの約1.3倍の月額62,000円が支給されるのです。
国でどのような議論があって13,000円という基準になっているのかわかりませんが、現状には合致していません。1にも関連することですが、こうした住宅扶助のあり方も生活保護制度の正しい理解を大きく妨げているような気がします。
医療扶助をはじめとするその他の支給について
3は、質問のなかでも再度確認させていただきましたが、医療扶助費が生活保護扶助費全体の実に4割を占めています。性質上、多く必要とされる方とそうでない方に分かれるとは思いますが、本市の場合、単純に医療扶助費総額を保護世帯数で割れば19年度・20年度決算ベースで年間100万円、月9万円程度が各世帯に支給されていることになります。
医療扶助は現金支給ではありませんし、保護世帯以外の世帯も全額を負担しているわけではありませんので、一概に比較することはできませんが、「標準3人世帯」を例とするなら、本市の場合、159,870円(生活扶助)+62,000円(住宅扶助)+90,000円(医療扶助)=311,870円が毎月支給されていることになります。さらに、保護世帯が減免となる保険料や税金、保育料などを一種の支給とみなせば、一世帯当たりの月支給額は350,000円を超えるはずです。もちろん、この数字は少し極端で、実際には働くなどして得た収入がここから引かれるわけですが、「最低生活費」という言葉から想像される額とは大きな開きがあると思う方も多いのではないでしょうか。
二重支給や不正受給に対する市の考え方について
4は、質問時間の関係で詳細まで議論できず、市の基本的な考え方を質す程度で終わってしまいました。
二重支給については、扶助費のなかで既に算入されているにもかかわらず、さらに減免を行っているものの有無の確認を行いましたが、質問の答弁を聞く限りでは二重支給となっているものはなさそうでしたので、一安心です。
また、市の不正受給への対応としては、生活保護法63条(費用返還義務)、78条(不正受給者から保護に要した費用の全部または一部を徴収できる規定)の近年の適用状況を確認しました。
一般的には被保護者に不正受給の意図があったかどうかによって、緩やかな63条で処分するのか厳しい78条で処分するのかを判断するようですが、このあたりがあいまいではないかという気がしています。63条での処分は市の裁量で返還額の全額または一部免除が可能であるのに対して、78条での処分では受給者の資力の有無にかかわらず、不正受給の全額を決定するもので返還額の免除は不可能とされています。生活保護法に強制徴収の規定はありませんので「少しでも返してもらいたい」と担当者が考えた場合、緩やかな63条を適用しているのではないかなと勘ぐってしまいます。事実、平成19年度決算では63条による返還金が約2,957万円、78条による徴収金が約164万円、20年度決算では63条による返還金が約2,113万円、78条による徴収金が約23万円となっています。
確かに、少しでも返してもらえることはありがたいことなのかもしれませんが、となると、厚生労働省が公表している全国で約106億円という不正受給額は「氷山の一角」ではないかと考えてしまいます。
さらに言ってしまえば、78条は裁量規定であり、発動が義務づけられていないようですので、78条どころか63条すら適用せず、不正受給が発覚しても返還を求めずに保護を打ち切るというケースが実際は多いのではないかと感じています。もちろん、資力がないとされているがために保護を受けているわけですから、ここを徹底的に追及してもコストに合わないという現実もあるとは思いますが。
その他、本制度の課題は、生活保護の現業担当職員(ケースワーカー)の不足、医療扶助費のチェック体制、最近注目されているベーシック・インカムとの関係などがありますが、またの機会に論じることができればと思います。