- 投票率と投票結果については実感とほぼ変わらず。低投票率とはいえ、30%を超えたことは良かったと思う。投票率は過去2回の市長選挙とほぼ変わらず。直近の県知事選より高い。
- 住民投票条例には「市長および市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない。この場合において、投票した者の賛否いずれか過半数の結果が投票資格者総数の3分の1以上に達したときは、その結果の重みを斟酌しなければならない。(11条)」とある。報道等で指摘されている「1/3」が成立要件でないことは本会議で確認済み。前段部分は請求者原案と同じであり、当然、市長および市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない。後半部分については、市民の投票行動にインセンティブを与えるため、地方自治法の解職請求制度の署名数を根拠とし、先行事例等をふまえて、原案に付け加えたもの(※)。決して「市長と住民双方にいい顔」をしようとしたわけではない。ただし、市民にはわかりにくかったように思う。もともと議会内には成立要件について様々な意見があったが、できる限り合意形成を図ろうと議論を尽くした結果である。「市長と住民双方にいい顔」をしたかったのは匿名を条件に取材に応じた議員ではないだろうか。
※ 小平市都道328号線の計画見直しの是非を問う住民投票に関わった國分功一郎氏(哲学者)は、50%成立要件を投票ボイコット運動を誘発するものとして問題視するとともに、一方の選択肢が総有権者数の1/3を超えた場合、その結果を尊重すると規定する我孫子市市民投票条例を評価している。詳しくは、國分功一郎『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(幻冬舎、2013年)を参照。
- 投票対象を含む関連情報の周知については、今後、議会において検証すべき点が多いと感じる。市民からも「よくわからない」というご意見を多くいただいた。賛成・反対双方の側から様々な情報が提供されたが、冷房設置にかかる費用や教室内の温度等、一定の条件もとで客観的数値で示すことができるデータについては、双方が「すり合わせた」うえで提示できなかったのかとも思う。もっとも「すり合わせ」のできる環境であれば、そもそも住民投票は行われなかったとも考えられるので、何とも言いようはないが……。投票までの期間についても、請求者原案が「30日以内」であったものを議会で「60日以内」と修正した。主に事務手続き上の理由から修正を行ったが、市民の熟慮期間を考慮するならば、もう少し期間が長くても良かったかもしれない。
- そうはいっても、反対派の冷房設置費用「78億円」は、実感として、市民に大きな誤解を与えたと考える。反対派のチラシも数種類あり、なかには「冷暖房工事の試算」と注釈が書かれたものもあったが、多くの方々が冷房設置費用が「78億円」と考えていたようだ。前回のエントリーにも書いたが、この点については総務常任委員会での指摘があったにも関わらず、市の広報紙も含め、「判りにくい」表現となったことは非常に残念だ。
- 市長も議員も条例案を議会に提案でき、議決されれば、市民を拘束する条例をつくることができる立場だ。住民投票条例に罰則はないが、第7条には「(1)市長は、住民投票の適正な執行を確保するため、市民が適切な情報に基づいて判断できるよう必要な情報提供を行うものとする。(2)市長は、前項に規定する情報の提供に当たっては、中立性の保持に留意しなければならない。」とある。市長は市内各種団体の新年会や街頭で大々的な選挙運動をしていたようだが、今後、この条文との整合性をどのように説明するだろうか。また、議会はどう考えるだろうか。
- 「迷惑施設の建設や大規模開発、基地問題等で住民投票を行うなら理解できるが、小中学校への冷房設置ごとき問題でなぜ住民投票を行うのか?」というご指摘も多くいただいた。この指摘に関連し、3つのことを考えた。
ひとつは、冷房の設置について市長と議会の見解が分かれていることが伝わっていなかったということだ。「冷房の設置ごとき問題」を議会が決められず、住民投票に委ねたと理解されている場合だ。こう理解されていた方は「今時、学校に冷房ぐらい設置するのは当たり前なのに、議会は何をやってるんだ」と考えている場合が多かった。議会としては以前から冷房の設置工事を中止した市長に対して再考を促す主旨の決議等を議決していたが、この辺りのことがあまり伝わっていなかったし、市議会だより等を通じて住民投票に至るまでの経過を周知したが、まだまだ説明責任を果たしたとまでは言えなかったのではないだろうか。
二つめは、住民投票という制度を、いわゆる迷惑施設の設置を決めた国(場合によっては都道府県)に対して地元の意見を表明する機会と理解されていた場合だ。「国策」の是非を問う住民投票は確かに多い。しかし、全国のどこかには必要であるにも関わらず、地元に迷惑がかかる可能性のある施設の設置の是非については、安易に住民投票に付すべきではない。各地で投票が行われれば、各地で設置反対の結論になる可能性が高く、「どこかに必要な施設であるにも関わらず、どこにも設置できなくなってしまう」からだ。こうした問題については、首長・議会が自らの責任において判断すべきと思う。
三つめは、東日本大震災以降の日本の民主主義についてだ。反原発を掲げる国民が国会を取り囲んでデモを行った(行っている)ことは記憶に新しいが、震災後(市長もよく言われる「災後」)の日本は直接民主主義の流れが強くなっているといわれる。SNSの発達なども影響しているだろう。国の制度とは異なり、現行の地方自治制度にはいくつかの直接民主主義制度が予め備えられている。間接民主主義が基本なのかもしれないが、これらを上手く活用して自治体運営を行っていかなければならないと思う。議会改革にもつなげていかなければならない。
- 報道によれば、市長は住民投票の結果を「重く受け止める」としながらも、冷房設置の判断を先送りしたようだ。投票結果の分析や財政上の課題等もあるだろうから、この姿勢には一定の理解を示すが、条文の通り「市長および市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない」のであり、原則として「冷房を設置する方向」で今後の議論が行われる必要があると考える。23日から新年度予算を審査する3月定例会が始まる。今回の住民投票で冷房設置の是非は市の財政上の問題として語られた印象が強い。となると、冷房設置に対する市の財政上の方針が見えない限り(冷房設置に関する財源が確保されない限り)、新年度予算をそのまま議会が通すことは難しくなるのではないだろうか。とりわけ、財政難を理由に冷房設置を見送るべきと主張した議員はそのように考えているのではないだろうか(考えなければいけないのではないだろうか)。