立法機関としての議会

議会基本条例10周年を記念して開催されたシンポジウムに併せて発行された「所沢市議会基本条例制定10周年記念誌」に寄稿した文章です。以前書いたこちらの文章を大幅に加筆修正したものです。

立法機関としての議会

「市議会は、二元代表制の下、市長等執行機関との健全な緊張関係を保持しながら、立法機能及び監視機能を十分発揮し、もって地方自治の本旨の実現を目指さなくてはならない」。所沢市議会基本条例前文の一部である。

10年前、同条例の検討のために設置された議会基本条例制定に関する特別委員会の委員となり、素案策定を行なった際、委員各位の同意を得て、「立法機能」という文言を盛り込んだ。この文言の入った議会基本条例は全国にそう多くない。日本国憲法が国会を「(唯一の)立法機関」と規定している(41条)一方で、地方議会を「議事機関」としている(93条)ためだろう。

「議事機関」とは何かについてここで詳細は述べないが、私は、議会は立法機関であって、この機能を発揮してこそ、市民に信頼される議会になり得ると常々思っている。

制度的にも、地方自治法は、条例の制定・改廃を議会の権限とし(96条)、普通地方公共団体の長を執行機関として位置づけている(138条の2、138条の3等)。あたりまえだが、長に条例提案権はあるが、条例制定権はない。こうした意識を議会・議員がもつことが重要だ。

地方分権一括法の施行は、条例制定権の及ばなかった(すなわち、議会が関与できなかった)機関委任事務を廃止し、議員の議案提出要件を議員定数の8分の1以上から12分の1以上へと緩和した(112条2項)。現在では議会内に設置された委員会にも議案提出権を認めている(109条の6)。議会がもつ立法機能の拡大と発揮は時代的な要請ともいえるだろう。

予算提案権のない議会が地域独自の新たな政策の実行を執行機関に義務付けようとすれば、条例制定以外に方法はない。執行機関への決議や質問・質疑に対する答弁に拘束力はないからだ。

しかし、残念なことに、議会基本条例制定以降に成立した議員提案による政策条例は、平成26年に制定された所沢市歯科口腔保健の推進に関する条例の1件のみである。むやみに条例を制定する必要はないが、10年間に1件ではさすがに少ない。前文に掲げた立法機能の発揮という点からは、議会改革もまだまだという印象だ。

議員提案の条例制定には当然多くの困難がともなう。思想・信条の異なる議員間による合意形成の難しさはもちろん、議会を支える政策法務スタッフの不足、市民参加、執行機関との調整、「与党・野党根性」、長の再議権等だ。

翻って、本市議会の過去を振り返ると、平成9年に制定されたダイオキシンを少なくし所沢にきれいな空気を取り戻すための条例は、議員提案による地域独自の条例として、多くの地方自治関連書籍にもとり上げられる先進事例となっている。所沢市自治基本条例や直接請求に端を発した防音校舎の除湿工事(冷房工事)の計画的な実施に関する住民投票条例の審査の際に行なわれた議員間での修正協議も記憶に新しい。条例策定には議員間の熟議が重要となる。執行機関に質問すれば条例案ができるわけではないからだ。

常任委員会も活性化している。明示的な制度ではないものの、各委員会はそれぞれテーマを掲げて所管事務調査を行なっており、執行機関へのヒアリングや現場視察だけでなく、参考人招致、専門的知見の活用、自由討議、各種団体との意見交換も盛んになってきた。議会が条例を制定するための土壌は整いつつある。

議会基本条例が制定され、10年が経った。以上をふまえ、私たち議員は議会のもつ本来の立法機能を自覚し、条例制定をおそれず、市民や執行機関に向き合う必要がある。「市長に恥をかかせる」等の意識は無用だ。そもそも議会が立法機関なのだから。

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